1. すぐ隣にいるのに、伝わらないもどかしさ
私は7年間、家で介護を続けてきました。なかでも、訪問歯科治療の時間は、私にとって「情報の伝え方」を深く考えさせられる原体験となりました。
私の祖父は認知症を患い、耳も遠くなっていました。治療の内容を説明するには、歯科衛生士さんが祖父の耳元に顔を近づけ、精一杯の大きな声を出さなければなりません。それでも、祖父にどこまで伝わっているかは分かりませんでした。
「何をされるか分からない」という恐怖は、人を強張らせ、時には拒絶へと繋がります。私は、「言葉の限界」を痛いほど感じていました。
2. なぜ、言葉や2Dの図解だけでは届かないのか
医療の現場では「インフォームド・コンセント(納得のいく説明と同意)」が重視されます。しかし、現実はどうでしょうか。
● 言葉の壁
目に見えず、すぐに消えてしまう。特に認知症や難聴の方には、理解のハードルが非常に高いメディアです。
● 2D図解の壁
専門的な断面図やレントゲンは、一般の方には「自分の体の一部」として直感的に結びつきにくいものです。
「納得」とは、単に説明を聞くことではなく、「自分の体の中で何が起きているか、手触りを持って理解すること」のはずです。既存のツールだけでは、どうしても埋められない溝がありました。
3. 解決策としての3D:それは「対話のための道具」
そこで辿り着いたのが、3Dビジュアライゼーションです。3Dモデルの最大の強みは、その「直感性」にあります。
- ✔見るだけで分かる: 回転させ、拡大する。自分の歯の状況を空間的に捉えることが、圧倒的な「安心」に繋がります。
- ✔対話のハブになる: 3Dは、患者さんと医療従事者が同じ視点に立つための「共通言語」になります。
テクノロジーは、決して人を置き換えるものではありません。人と人がもっと通じ合えるようにするための「橋渡し」であるべきなのです。
4. ビジョン:テクノロジーでQOLを底上げする
現在進めている「3Dの歯」の開発は、まさにこの願いの形です。単に正確なモデルを作るのではなく、「説明する先生の負担を減らし、説明を受ける患者さんの不安を消す」。そんな、現場の体温が通ったインターフェースを目指しています。
患者さんが自分の状況を正しく理解し、納得して治療を受けられるようになる。それは、その人のQOL(生活の質)、ひいては「納得して生きる力」を底上げすることに繋がると確信しています。
5. 結び:7年間の「気づき」を、これからの「価値」へ
介護の現場で祖父の隣に座り続けた7年間。そこで感じたもどかしさや、小さな気づきの一つひとつが、今の私のコードに宿っています。
「見えない不安」を、テクノロジーの力で「見える安心」へ。
私はこれからも、医療と患者さんの間にある壁を、誠実なエンジニアリングで溶かしていきたいと思います。
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